日本古楽界の源流を探る(19)
28日、昭和初期の日本での古楽ブームを検証するシリーズ、今日はレコード音楽雑誌「Disques」昭和10年(1935年)5月号を紹介。 巻頭の広告の中で目を引くのはC・S・Terry著村田武雄訳補のバッハの本格的な解説書。「これは西洋音楽の父J・S・バッハの生涯と音楽との鳥瞰図ともいふべきものである」との広告文が凄い!この昭和10年はバッハ生誕250年にあたるので日本でもバッハブームが起こっていたのかも・・・。
この号の特集はワグナーとベートーヴェン。そしてクウプランのクラヴサン曲集の解説が登場。「ヴァンセンヌの工房から産み出された古い陶器の羊飼女を想ひ起こさせるやうなフランソア クウプラン ル グランのクラヴサン曲は私を駆つて遠く優雅典雅な天陽王ルイ王朝の栄華にまで夢を運んで呉れる~」との何とも詩的な文で始まる紹介は、彼が如何に偉大な作曲家として評価されるべきかを繰り返し力説。最後に「プレイエルが古い型に則つて作つた立派なクラヴサンでランドフスカ夫人が弾くクラヴサン集は、私にとつて最も嬉しいレコードの一つであつた~」とあり、この録音の楽器はもしかすると通常のランドフスカモデルのモダンチェンバロではなくヒストリカルに近い構造なのかもと思える興味深い文章も登場。ランドフスカがヒストリカルモデルで録音していたとなると大変衝撃的な事実なのですが・・・(完全なヒストリカルではないかもしれませんが)
この号には他にもシューベルトの冬の旅の訳詞が連載で掲載されており、この曲ももう相当愛聴されていた様子。最後の出版社からの後書を見るとこの号の巻頭付属にランドフスカのサイン入り写真があると書かれているのを発見するも何故か剥ぎ取られておりました(残念!) 多分レコードを聴く部屋に飾られていたのでは? レコード評ではブランデン5番(伯林フイルのメンバーの演奏)の紹介。以前出たコルトオ盤はピアノで代用していたがこの盤はチェンバロを使用と両者を比較しており、「こちらは器楽編成を縮小して、眞個の姿としての是等の古典を紹介してゐることにも亦充分な意義があるやうに思ふ」とオーセンティックな取り組みを高評価しているのが興味深い。
巻頭広告にあったバッハ本は実は先日運良く入手。その生涯や作品の充実した解説も素晴らしいものの、チェンバロの他にクラヴィコードやハムマークラヴィアとの関わりにも充分な解説をしているところには感心。
SP盤蒐集家にとっては巻末の昭和10年当時のバッハの録音リストがありがたい!今から75年前にクラヴィコード録音がもう四種類、チェンバロ録音は十数種類(それもランドフスカ以外の奏者が多数) も発売されているとはビックリ!
« タフな楽器 | トップページ | 日本古楽界の源流を探る(20) »
「チェンバロ」カテゴリの記事
- Hantai氏のスカルラッティ(2018.04.16)
- 浪速の名建築でゴールドベルヒ變奏曲(2018.04.12)
- 口ザリオソナタ千秋楽(2018.04.10)
- 口ザリオソナタ初日(2018.04.09)
- 口ザリオソナタ全曲公演まもなく(2018.04.08)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/140345/39049854
この記事へのトラックバック一覧です: 日本古楽界の源流を探る(19) :
コメント